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神戸地方裁判所 昭和63年(行ウ)14号 判決 1991年12月26日

原告

革嶋由利子

右訴訟代理人弁護士

石田好孝

久岡英樹

被告

芦屋税務署長

吉田進

右指定代理人

小久保孝雄

外五名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対して、昭和六一年一〇月三〇日付けでした原告の昭和六〇年分所得税についての更正処分及び重加算税の賦課決定処分(但し、重加算税の賦課決定処分については、昭和六三年六月二一日付け審査裁決により一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和六一年三月一二日、被告に対し、別表1の確定申告欄記載のとおり、昭和六〇年分の所得税の確定申告をしたが、右申告において、分離長期譲渡所得金額を〇円としたところ、被告は、同年一〇月三〇日、原告に対し、別表1の更正処分欄記載のとおり更正処分及び重加算税の賦課決定処分(以下、両処分を一括して「本件更正処分等」という。)をした。

2  原告は、同年一一月一〇日、被告に対し、本件更正処分等につき異議申立てをしたが、被告は、右異議申立ての翌日から三か月を経過しても異議申立てに対する決定をしなかったので、原告は、昭和六二年二月一九日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたところ、同所長は、昭和六三年六月二一日、所得税の更正処分に対する審査請求を棄却し、重加算税の賦課決定処分のうち、過少申告加算税額に相当する二三五万三〇〇〇円を超える部分を取り消す旨の裁決をし、右裁決書は、同年七月二三日、原告に送達された。

3  しかし、被告がした本件更正処分等は、次の理由により違法である。

(1) 大阪府吹田市藤白台二丁目一二五番九四所在の宅地452.76平方メートル(以下「本件土地」という。)及び同地上の家屋番号一二五番九四の軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平屋建居宅51.83平方メートル(以下「本件建物」という。なお、両者を併せて「本件土地建物」という。)は、もと原告の父松浦豊が所有していたが、同人が昭和四九年三月一七日に死亡したため、原告の母松浦敬子がこれを相続により取得し、さらに同人が昭和五六年六月一四日に死亡したため、原告が相続により取得した。

(2) 原告は、昭和六〇年八月二日、島津公隆及び同恵子夫婦に対し、本件土地建物を代金一億〇二〇〇万円で売り渡した。

(3) 原告は、昭和五九年一二月二二日、原告の居住の用に供するため、兵庫県住宅供給公社から、兵庫県芦屋市潮見町三番二所在の土地452.49平方メートル(以下「芦屋の土地」という。)を、原告の夫革嶋恒徳(以下「恒徳」という。)と共に持分各二分の一で代金七七三七万五〇〇〇円で取得し、さらに、昭和六〇年一一月一四日、芦屋の土地上に、家屋番号潮見町三番二の二鉄筋コンクリート・鉄骨亜鉛メッキ鋼板葺陸屋根三階建延床面積302.76平方メートル(以下「芦屋の建物」という。)を六五一四万七六二五円で建築取得した。

(4) 原告は、昭和六〇年二月一九日、恒徳が所有している大阪府吹田市山田西三丁目二六番地七所在の千里王子高層住宅B棟二〇六号(以下「山田のマンション」という。)から本件建物に転居し、昭和六一年三月三日に芦屋の建物に転居するまでの間、本件建物を居住の用に供していた。

(5) このように、本件土地建物は、原告が一〇年を超えて所有しており、かつ、居住の用に供していたものであって、原告は本件土地建物の譲渡の日の属する年の前年一月一日から当該譲渡の日の属する年の一二月三一日までの間に原告の居住用の家屋及びその敷地を取得し、かつ、当該取得の日から当該譲渡の日の属する年の翌年一二月三一日までの間に原告の居住の用に供しているのであるから、租税特別措置法三六条の二第一項(居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例)の適用を受けるものであり、しかも当該資産の譲渡による収入金額が当該買換え資産の取得価額以下であるから、分離長期譲渡所得の金額も〇円となり、税額も〇円となるべきものである。

しかるに、被告は、本件建物は原告の居住の用に供されているとは認められないとし、租税特別措置法三六条の二第一項の適用を否認して、本件更正処分等をしたもので、右処分等は違法である。

4  よって、原告は、被告に対し、本件更正処分等の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3(1)  同3の(1)ないし(3)の事実は認める。

(2) 同(4)の事実のうち、原告の夫恒徳が山田のマンションを所有していることは認めるが、その余の事実は否認する。

(3) 同(5)のうち、被告が、本件建物は原告の居住の用に供されているとは認められないとし、租税特別措置法三六条の二第一項の適用を否認して、本件更正処分等をしたことは認めるが、その余は否認もしくは争う。

三  被告の主張

1  原告の昭和六〇年分の分離長期譲渡所得金額は、九四六〇万円であり、その明細は別表2のとおりである。

(1) 譲渡収入金額(別表2の①)

原告が昭和六〇年八月二日に本件土地建物を島津公隆及び同恵子に譲渡した代金額である。

(2) 取得費(同②)

所得税法六〇条一項一号、租税特別措置法三一条の四第一項及び同措置法関係通達三一の四―一に基づく概算取得費で、右譲渡収入金額に一〇〇〇分の五を乗じた金額である。

(3) 譲渡経費(同③)

藤和不動産株式会社に支払った仲介手数料一二〇万円と不動産売買契約書に貼付した収入印紙代一〇万円の合計金額である。

(4) 特別控除額(同⑦)

租税特別措置法三一条一項、三項に基づく特別控除額である。

2  租税特別措置法三六条の二第一項は、「居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の特例」を定めているが、同項に定める「居住の用に供している家屋」とは、譲渡もしくはこれに近い時期までに、その者が相当期間継続的に、客観的にみて真に居住するなど実質的な生活の本拠として使用している家屋をいい、当該家屋がこれに該当するかどうかは、その者及び配偶者等家族の構成員らの日常生活の状況、その家屋への入居目的、家屋の構造、規模設備及び管理の状況その他の諸事情を総合的に勘案し社会通念に照らして判断すべきであるところ、次のとおり、原告は、昭和六〇年一一月ころ芦屋の建物に転居するまで、本件建物を「居住の用に供していた」ものでないことは明らかである。

(1) 次のような事実からみて、原告は、昭和五九年六月ころまでには、本件土地建物を売却することを決意し、かつ、その売却代金をもって、診療所兼居宅となる芦屋の建物の建設資金及びその敷地である芦屋の土地の購入資金に充てることを予定し、しかも、本件土地建物を売却するために、同年一〇月ころまでに本件土地建物の売却仲介を不動産会社に依頼し、その後も同様の依頼を継続していたのであるから、原告は、住民登録を本件土地建物所在地に移した昭和六〇年二月一九日当時、相当期間継続的に実質的な生活の本拠として居住する意思がなかったことは明らかである。

① 恒徳は、昭和五九年五月一〇日、株式会社三和銀行千里中央支店に対し、芦屋において診療所を開設するための資金として一〇〇〇万円を借り入れるための申込みをしたが、その際、同支店が作成した貸付稟議書には、原告の話として、開業資金総額約一億四〇〇〇万円の調達について、「当該借入後の残額については本件土地建物の売却金で充当し、借入金は極力少なくしたい。自宅とも芦屋へ転居予定である。」としている。

② 原告及び恒徳は、兵庫県住宅供給公社から芦屋の土地を買い受けたが、その際に作成した「分譲宅地譲渡契約証書」の一〇条、一五条(1)号によれば、公社は、芦屋の土地を医療施設建設用地として譲渡するもので、建物を昭和六〇年六月三〇日までに建設し開院しなければならないとされており、原告が右条件に違反した場合には、公社は催告を要しないで契約を解除しまたは宅地を買い戻すことができるとされている。

③ 原告及び恒徳は、昭和五九年九月五日、芦屋の建物の設計着手金として出江寛建築設計事務所に一〇〇万円を支払った。

④ 原告及び恒徳は、同年一〇月ころ、本件土地建物の売却の仲介を株式会社不動産サービスセンターに依頼し、その広告を「週刊住宅情報」(関西版)の一一月七日付け発行号に掲載させたほか、本件土地建物の売買契約が成立する昭和六〇年八月二日まで数回にわたり不動産会社に対して売却の依頼をしている。

⑤ 原告及び恒徳は、昭和五九年一二月一八日、芦屋の土地の代金の支払に際し、三和銀行から原告名義で三九〇〇万円と恒徳名義で二九〇〇万円の借入れを行ったが、その際銀行が作成した貸付稟議書には、原告名義の借入分については本件土地建物の売却代金により六か月以内に返済すると記載されている。

(2) また、次のような事実からみて、原告は、本件建物に転居したと主張する昭和六〇年二月一九日から、芦屋の建物に転居したという昭和六一年三月三日までの期間中、実質的な生活の本拠として本件建物に居住していたのではなく、また、同建物における電気、ガス及び水道の使用は、譲渡所得についての買換え特例制度の適用を考慮してのものである。

① 本件土地建物の購入者である島津恵子が買入れに先立ち、本件土地建物を下見した昭和六〇年四月ころには、門扉がとれかかっており、庭には草がのびっぱなし、植木も手入れされておらず、家には雨戸がしまったままで鍵も仲介人が持っていた状態であった。

② 恒徳は、山田のマンションの近くの株式会社王子住宅の駐車場を昭和六〇年一〇月まで賃借し、自動車二台を置いていた。

③ 本件建物、山田のマンション及び芦屋の建物の電気、ガス及び水道の使用量及び開閉栓日は別表3及び4のとおりであるが、本件建物での使用量は極めて少ない。

④ 原告は、昭和六〇年六月一三日、三和銀行から芦屋の建物建築費の中間金支払のために二二〇〇万円を借り入れているが、これは、芦屋の建物の建築費を本件土地建物の売却代金でまかなうまでの、つなぎ資金として借り入れたものであり、本件土地建物の売却から生じる譲渡所得について居住用財産の買換え特例を受けることを目的としていた。

3  よって、本件建物は、租税特別措置法三六条の二にいう「居住の用に供している家屋」には該当せず、同条の特例を否認した本件更正処分等は相当である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の事実は否認する。

2  同2の柱書部分は争う。

(1) 同2の(1)のうち、原告の夫恒徳が、昭和五九年五月一〇日、株式会社三和銀行千里中央支店に対し、芦屋において診療所を開設するための手付金として一〇〇〇万円を借り入れるための申込みをしたこと、その際、同銀行が作成した貸付稟議書には、開業資金総額約一億四〇〇〇万円の調達について、「当該借入後の残額については本件土地建物の売却金で充当し、借入金は極力少なくしたい。自宅とも芦屋へ転居予定である。」と記載されていること、原告及び恒徳が、兵庫県住宅供給公社から芦屋の土地を買い受けた際に作成した「分譲宅地譲渡契約証書」の一〇条、一五条(1)号に、公社は、芦屋の土地を医療施設建設用地として譲渡するもので、建物を昭和六〇年六月三〇日までに建設し開院しなければならず、原告が右条件に違反した場合には、公社は催告を要しないで契約を解除しまたは宅地を買い戻すことができると記載されていること、原告及び恒徳が、同年一〇月ころ、本件土地建物の売却の仲介を株式会社不動産サービスセンターに依頼し、その広告が「週刊住宅情報」(関西版)の一一月七日付け発行号に掲載されたこと、原告及び恒徳が、昭和五九年一二月八日、芦屋の土地の代金の支払に際し、三和銀行から原告名義で三九〇〇万円と恒徳名義で二九〇〇万円の借入れを行った際に銀行が作成した貸付稟議書には、原告名義の借入分については本件土地建物の売却代金により六か月以内に返済すると記載されていることは認めるが、その余の事実は否認する。

(2) 同2の(2)のうち、恒徳が、山田のマンションの近くの株式会社王子住宅の駐車場を昭和六〇年一〇月まで賃借し、自動車二台を置いていたことは認めるが、その余の事実は否認する。

3  同3は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1及び2の事実並びに3の(1)ないし(3)の事実、(4)のうち、原告の夫恒徳が、山田のマンションを所有していること、(5)のうち、被告が、本件建物は原告の居住の用に供されているとは認められないとし、租税特別措置法三六条の二第一項の適用を否認して、本件更正処分等をしたことは、当事者間に争いがない。

二租税特別措置法三六条の二第一項は、個人がその年の一月一日において所有期間が一〇年を超える居住用財産を譲渡し、当該譲渡の日の属する年の前年一月一日から当該譲渡の日の属する年の一二月三一日までの間に自己の居住の用に供する家屋又はその敷地を取得した場合には、当該譲渡の日の属する年の翌年の一二月三一日までに買換資産を自己の居住の用に供することを要件として、長期譲渡所得の課税を繰り延べることとしている。ところで、右条項に定める「居住の用に供している家屋」とは、譲渡もしくはこれに近い時期までに、その者が真に居住の意思を持って、かつ、客観的にも相当期間継続して実質的な生活の本拠として使用している家屋を指し、同条項の適用を受ける目的のためにのみ、あるいはその居住の用に供する家屋の新築期間中の仮住まいのためなど一時的な目的で短期間臨時的に居住する家屋はこれに当たらないと解すべきである。そして、具体的に、当該家屋がこれに該当するかどうかは、その者及び配偶者等家族の構成員らの日常生活の状況、その家屋への入居目的、その家屋の構造、規模設備及び管理の状況その他の諸事情を総合的に考慮し、社会通念に照らして判断すべきであると解せられる。

以下、この見地に立って、原告の本件建物が右条項にいう「居住の用に供している家屋」に該当するかどうかについて検討する。

三1  被告の主張2の(1)のうち、原告の夫恒徳が、昭和五九年五月一〇日、株式会社三和銀行千里中央支店に対し、芦屋において診療所を開設するための手付金として一〇〇〇万円を借り入れるための申込みをしたこと、その際、同銀行が作成した貸付稟議書には、開業資金総額約一億四〇〇〇万円の調達について、「当該借入後の残額については本件土地建物の売却金で充当し、借入金は極力少なくしたい。自宅とも芦屋へ転居予定である。」と記載されていること、原告及び恒徳が、兵庫県住宅供給公社から芦屋の土地を買い受けた際に作成した「分譲宅地譲渡契約証書」の一〇条、一五条(1)号に、公社は、芦屋の土地を医療施設建設用地として譲渡するもので、建物を昭和六〇年六月三〇日までに建設し開院しなければならず、原告が右条件に違反した場合には、公社は催告を要しないで契約を解除しまたは宅地を買い戻すことができると記載されていること、原告及び恒徳が、同年一〇月ころ、本件土地建物の売却の仲介を株式会社不動産サービスセンターに依頼し、その広告が「週刊住宅情報」(関西版)の一一月七日付け発行号に掲載されたこと、原告及び恒徳が、昭和五九年一二月一八日、芦屋の土地の代金の支払に際し、三和銀行から原告名義で三九〇〇万円と恒徳名義で二九〇〇万円の借入れを行った際に銀行が作成した貸付稟議書には、原告名義の借入分については本件土地建物の売却代金により六か月以内に返済すると記載されていることは、いずれも当事者間に争いがない。

2 右一及び三の1の争いがない事実に、<書証番号略>、証人革嶋恒徳の証言、原告本人尋問の結果によれば、原告が本件建物に転居したと主張する昭和六〇年二月一九日以前の諸事情について、次の各事実が認められる。

(1)  原告は、昭和五三年八月から山田のマンションに居住しており、家族は、夫恒徳と昭和五一年生まれの長男及び昭和五三年生まれの長女の四人暮らしである。原告は、昭和五六年六月一四日、本件土地建物を相続により取得した。

恒徳は、大阪市住吉区に診療所を開設し、かつ関西医科大学にも勤務する医師であり、山田のマンションを所有するほか、京都市内に相続により取得した不動産や、自ら取得した不動産を保有している。

(2)  本件建物は、山田のマンションから自動車で数分の距離であるが、原告は、相続による取得後、本件建物には、荷物等を置いていたのみであり、昭和六〇年二月一九日以前において、実際に居住したことはなかった。

(3)  恒徳は、昭和五九年五月一〇日、三和銀行千里中央支店に対し、後述の芦屋の土地上に診療所を開業するための資金の手付金一〇〇〇万円を借り入れるための申込みをしたが、その際、同支店の担当者が作成した貸付稟議書には、恒徳側から聴取した話として、「残額調達については、不動産売却金で充当し、借入金は極力少なくしたいとの考え(奥様の話」「自宅共芦屋へ転居予定である」との記載があり、また、売却を予定している不動産について、「藤白台(一三八坪)約一三〇百万円」と、具体的な物件名と売却予定金額が付記されている。

(4)  恒徳は、同年六月二六日、兵庫県住宅供給公社との間で、芦屋の土地を代金七七三七万五〇〇〇円で恒徳が買う旨の分譲宅地譲渡契約を締結した。同契約は、買主である恒徳が自ら経営する医療施設(住宅併存)を建設すること及び恒徳が建設する医院の開業日を一年後の昭和六〇年六月三〇日とすることを条件とし、さらに、買主がこれに違反したときは、兵庫県住宅供給公社は、右契約を解除し、芦屋の土地を買い戻すことができるとされていた。

(5)  恒徳は、同年九月五日、出江寛建築事務所に対し、同人が計画している医療施設の設計の着手金として、一〇〇万円を支払った。

(6)  原告は、株式会社不動産サービスセンターを通じて、「週刊住宅情報」昭和五九年一一月七日号に本件土地を坪九〇万円、総額一億二三二一万円で売却する旨の広告を掲載した。同広告には、土地上に古家があること、即時引渡しが可能であることが記載されていた。

原告は、その後も、不動産サービスセンター及び藤和不動産株式会社を通じて、昭和六〇年二月ころ、同年五月九日ころの二回にわたり、本件土地の売却を依頼した。

(7)  原告及び恒徳は、昭和五九年一二月一八日、三和銀行千里中央支店に対し医療施設建設資金の借入れ(原告が三九〇〇万円、恒徳が二九〇〇万円)の申込みをしたが、その際、同支店の担当者が作成した貸付稟議書には、返済方法として「不動産売却より六ケ月以内に一括返済」「不動産の売却については下記物件を現在売りに出しており六ケ月以内に売却可能と見込む」と記載され、その売却物件として本件土地建物の表示がされている。

3  証人革嶋恒徳及び原告本人は、①兵庫県住宅供給公社との間の芦屋の土地の分譲宅地譲渡契約書には、昭和六〇年六月三〇日までに施設を建設し、開院しなければならないとされているが、同公社の担当者との口頭による約束では、購入後二年以内に建物を建築し、五年以内に医院を開業すればよいとの話であった、②三和銀行の担当者が作成した貸付稟議書に、原告が本件土地建物の売却により、芦屋の建物での医院を開業する資金を調達する予定であるとの記載があるが、原告夫妻は、当時、本件土地建物のほか、京都市内に三か所の土地及び大阪にマンションを所有しており、右資金を調達するために、これらのうち、いずれを処分するかまたは銀行から借り入れるかにつき、流動的に考えており、三和銀行の担当者にもそのように伝えていたところ、稟議書にあいまいな話を記載したのでは決裁をとることができないため、ある程度確定的な話として記載されてしまったものである、③昭和五九年九月五日に、出江寛建築事務所に対し、一〇〇万円の着手金を支払ったのは、同建築事務所の建築士の人気が高く予約しておかないと断られると聞いていたことから、まだ芦屋の土地に診療所兼住居を建てる計画が具体化する前に、予約する趣旨で支払ったもので、直ちに設計作業に入ったものではない、④週刊住宅情報に広告が掲載されたのは、原告の父親の後輩である市橋医師の勧めにより、本件土地建物を売却するならどの程度の価格で売れるのか調査する意味で、同医師の知合いである不動産サービスセンターに依頼したものである、と供述する。

しかし、①については、住宅供給公社のような公的機関が、原告に対してのみ、売却条件を緩和し、優遇するような内容の契約を締結することは、特別の事情がない限り考えられないし、原告が供述するような口頭による約束の存在を窺わせる事情は全く存しない。

次に②については、最初の借受けのときの稟議書の記載のみならず、最初の借受けから半年後に計六八〇〇万円を借り受けたときにも、同様に返済方法として、本件土地建物の売却によることを明記しているのであり、後記認定のとおり、その後の昭和六〇年六月に銀行から借り受けたときも、本件土地建物を売却するまでのつなぎ資金として借り受けるとしているのであるから、原告または恒徳が、銀行の担当者に対してした、本件土地建物を売却するという話は、決してあいまいなものではなく、確実な話としてしたものであると推認することができる。

また、③については、建築計画が具体化する前に単なる予約の趣旨で一〇〇万円という高額の着手金を建築事務所に支払ったという説明は納得できるものではなく、やはり、そのような高額の着手金を支払ったということは、芦屋の土地に診療所兼住居を建築する意思を固めていたということができる。

さらに、④については、当時、原告または恒徳が他に所有していた不動産については、特に広告を出していないのであるから、少なくとも、所有不動産の中で売却するならば、本件土地建物という意思は有していたと考えることは、決して不合理なことではない。

4  以上によれば、原告は、本件建物に転居したという昭和六〇年二月一九日より以前である昭和五九年五月以降、診療所を開設するとともに自宅を建設する予定で芦屋の土地を取得し、右建物の設計を依頼した建築事務所に着手金を支払い、同土地の取得費及び同土地上に建設する建物の建設費に充てるために銀行から借入れをする際に、銀行の担当者に対して、返済のために、本件土地建物の売却代金を充てる旨を明言し、所有する不動産の中で、本件土地についての売買の広告を、現実に不動産情報誌に掲載を依頼しているのであり、これらの事情によれば、原告は、山田のマンションから、建設計画を着実に進行させつつあった芦屋の建物に移転する意思で行動しているのであり、本件建物に居住する意思は有していなかったと認められる。

証人革嶋恒徳及び原告本人は、本件建物に入居した後の昭和六〇年三月ころ、中島玉雄の占いの結果により、はじめて本件土地建物を売却することを決心した旨供述するが、その供述自体、いかにも不自然であるうえ、その時点では、既に、芦屋の土地を取得し、同土地上に建設する建物の建築資金の借入れまでも行っているという右認定の経過によれば、証人革嶋恒徳及び原告本人の右供述は、到底、採用することができない。

四1  被告の主張2の(2)のうち、恒徳が、山田のマンションの近くの株式会社王子住宅の駐車場を昭和六〇年一〇月まで賃借し、自動車二台を置いていたことは、当事者間に争いがない。

2  右争いがない事実に、<書証番号略>、証人革嶋恒徳の証言によれば、原告が、山田のマンションから本件建物に転居したと主張する昭和六〇年二月一九日から、芦屋の建物に転居したという昭和六一年三月三日までの間において、次の事実が認められる。

(1)  本件建物、山田のマンション及び芦屋の建物における電気、ガス及び水道の使用量並びに開閉栓日は、それぞれ別表3及び4のとおりである。

これによると、本件建物における電気、ガス及び水道のそれぞれの開栓日から閉栓日までの月平均使用量を、山田のマンションにおける昭和五九年一月から同年一二月までの期間の平均使用量と比較すると、いずれも、約四分の一もしくは四分の一以下であり、特に都市ガスについてはその使用量自体極度に少ない。

これに対し、山田のマンションにおけるこれらの使用量は、原告が本件建物に入居したと主張する昭和六〇年二月の前後で、特に変化はない。

(2)  本件建物は、昭和六〇年ころ、既に建築後二〇年を経過しており、「週刊住宅情報」昭和五九年一一月七日号には、「古家」と記載され、かつ、その広告の売買価格には、土地のみの価格があげられていて、本件建物の価額が含まれていなかった。

(3)  昭和六〇年当時、本件建物は、外見上、あまり手入れがされていないような状況にあった。これに対し、山田のマンションは、建築されたのが昭和五一年三月であって、本件建物と比較するとまだ新しく、しかも、床面積は68.31平方メートルで、本件建物(51.83平方メートル)よりも広かった。

(4)  恒徳は、昭和六〇年一〇月まで、山田のマンションの近くの株式会社王子住宅の駐車場を賃借し、自動車二台をそこに駐車していた。

(5)  原告は、昭和六〇年六月一三日、三和銀行から、芦屋の建物の建築費の中間金支払のために、原告名義で、二二〇〇万円を借り入れたが、その際、同銀行の担当者が作成した稟議書には、最終的には、芦屋の建物の建築費を本件土地建物の売却代金で調達する予定であるが、その譲渡所得について、居住用財産の買換えの特例を受けるために、売却の時期を昭和六〇年八月以降にすることとし、その間のつなぎ資金として借り入れるとの記載がある。

(6)  原告は、昭和六〇年八月、島津公隆及び同恵子に対し、本件土地建物を売却したが、同人らから、本件土地の擁壁が不完全であるとの不服が出され、昭和六一年一月一〇日、同人らとの間で、売買代金を減額する調停が成立した。

3  原告は、昭和六〇年二月一九日に、本件建物に入居し、昭和六一年三月三日に芦屋の建物に転居するまでの間、本件建物に居住していた旨主張し、右主張に副う次のような証拠がある。

(1)  <書証番号略>(戸籍の付票)によれば、原告が本件建物に昭和六〇年二月一九日に入居したとの届出がされていることが認められる。

(2)  証人革嶋恒徳及び原告本人は、原告の一家が本件建物に移転した後も、恒徳が山田のマンションを夜間の仕事場として使用し、コンピュータ機器や薬品保管用の大型冷蔵庫もそのまま右マンションに残していたし、原告の兄がその一室を居住用に、他の一室を恒徳が仕事部屋として使用していた、原告一家は、本件建物に居住していたが、早朝から深夜まで子供と共に外出していた、食事は朝食を除いて外食していた、風呂は、内風呂を利用しないで銭湯へ行っていた、洗濯は恒徳が山田マンションで行っており、原告はしていない、などと供述する。

(3)  <書証番号略>によれば、原告の兄松浦寛は、昭和六〇年二月二二日に、山田のマンションに住民票を移し、翌年四月一日まで、同マンションに住民登録をしていたことが認められる。

また、<書証番号略>によれば、右期間内における山田のマンションにおける電気、ガス等の使用名義人は、松浦寛となっていることが認められる。

4  しかし、(1)については、<書証番号略>によれば、原告は、昭和五三年から本件建物に住民票を移した昭和六〇年二月一九日までの間、一〇回以上にわたって住民登録を移動させていることが認められる。証人革嶋恒徳及び原告本人は、右移動について、実際には、山田のマンションにそのまま居住していたにもかかわらず、京都市内の土地の購入、子供の学校の受験の関係等のために、他の場所に住民票を移し、必要がなくなれば、また山田のマンションに戻していたというのであり、現実に居住していない所にも住民登録を繰り返し行っていたのであるから、本件建物所在地に住民登録をしたことのみをもって、原告が現実に本件建物に居住するようになったことを推認することはできない。

次に、(2)については、原告本人の供述によるところは、食事はすべて外食、洗濯も他の所で行い、風呂の設備がありながら銭湯に通ったという、そのことだけでも極めて不自然であり、かつ、当時、小学生の子供二人がいる通常の家庭生活からは、およそ考えられない異常なものである。そして、前記認定のとおり、本件建物における電気、ガス、水道等の使用量は、従来、原告一家が居住してきた山田のマンションに比べて著しく少ないし、逆に、山田のマンションにおけるこれらの使用量は、原告が本件建物に入居したと主張する昭和六〇年二月の前後で特に増減がないことに照らすと、原告本人及び証人革嶋恒徳の右供述は、採用することができない。

さらに(3)については、証人松浦寛は、同人が山田のマンションに居住するようになった経緯について、妻との離婚問題が生じ、冷却期間をおくため、一時家族と別居することとなり、実の妹である原告に頼みこんで、勤務先及び従前の住居に近い右マンションを借りて、そこに居住するようになったものであると証言する。また、原告本人は、兄の松浦寛が山田のマンションに居住することになったから、かねて庭付きの一戸建てである本件建物に移転したと供述する。証人松浦寛の右証言自体は、信用できないものではないし、原告本人の右供述も一見筋が通っているようにも見られる。

しかし、証人松浦寛の右証言によっても、松浦が使用していたのは、山田のマンションの一部であって、一時、原告方に同居していたに過ぎないとみることも可能であり、その使用状況は、原告の一家が、山田のマンションに居住することを不可能にするようなものということはできないから、同人が、山田のマンションに住民票を移し、かつ、同所に居住していたという事実のみをもって、原告の一家が、山田のマンションではなく、本件建物に居住していたことを推認することはできないといわなければならない。また、原告本人の右供述も、前記一に認定のとおり、原告が相続により、本件土地建物を取得したのは昭和五六年六月であるところ、山田のマンションから車で数分の距離にある本件建物に移転することはいつでも容易であったと思われるのに、右相続から昭和六〇年二月まで四年近くの間、荷物の置き場所として使用していたに過ぎなかった本件建物に、その時点になって突然入居したのは不自然であるといわなければならず、原告本人の右供述も採用することができない。

そして、山田のマンションにおける電気、ガス等の名義が松浦寛に変更されているという事実についても、同人は、その理由について全く分からないと証言しているのであり、そのことは、すなわち、松浦が、単に短期間、原告方に同居していたに過ぎないとの見方を裏付けるものということができる。

なお、以上に説示したほか、原告は、原告及びその家族が本件建物に居住していたことを証する証拠として、知人の報告書、本件建物を宛先とする原告に対する手紙、新聞配達店の証明書等を提出するが、いずれも、原告が、本件建物を何らかの形で使用していたことを裏付ける証拠に過ぎず、これらをもって、原告が、本件建物を生活の本拠として使用していたことを証するものということはできない。

5  このように、原告の主張を裏付ける証拠は、そのとおり採用することができず、昭和六〇年二月における住民票の移動、本件建物における電気、ガス、水道の開栓及び使用並びに山田のマンションにおける電気、ガス等の名義の変更等は、原告及びその家族が山田のマンションから転居して本件建物に入居したとの外見を整えるために行われたものであって、これらの事実をもって原告及びその家族が本件建物に居住していたことを認めることはできない。逆に、前記2に認定の事実によれば、原告とその家族は、実際には、それ以前と同様に山田のマンションに居住していたもので、本件建物を実質的な生活の本拠として使用していたと認めることはできない。

五以上によれば、原告は、本件建物に居住していたと認めることはできないし、また、原告及びその家族が本件建物を何らかの形で使用していたとしても、本件建物を売却することを前提とし、租税特別措置法三六条の二第一項の適用を受けることを目的として使用する外見を整えたに過ぎないもので、これを実質的な生活の本拠として使用していたと認めることはできない。したがって、本件建物をもって租税特別措置法三六条の二第一項の「居住の用に供している家屋」ということができず、本件土地建物の譲渡所得の算定につき、同条項の適用を否定してされた本件の更正処分は適法である。

また、原告には、本件の更正処分を受けたことに関して、国税通則法六五条四項の「正当な理由」を認めることができないから、過少申告加算税の賦課決定にも違法はない。したがって、審査裁決により右過少申告加算税の額を超える部分につき取り消された後の重加算税の賦課決定処分は適法であり、原告は、その取消しを求めることはできない。

六よって、原告の請求はいずれも理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官辻忠雄 裁判官吉野孝義 裁判官北川和郎)

別表1

革嶋由利子の昭和60年分の課税の経過及びその内容

(単位:円)

区分

確定申告

更正処分

異議申立

審査請求

裁決

年月日

昭和61年3月12日

昭和61年10月30日

昭和61年11月10日

昭和62年2月19日

昭和63年6月21日

所得金額

(1) 総所得金額

0

0

0

0

棄却

(2) 分離長期譲渡

所得金額

0

94,600,000

0

0

所得控除

(3) 基礎控除

330,000

330,000

330,000

330,000

課税所得金額

(4) 総所得金額

0

0

0

0

(5) 分離長期譲渡

所得金額

0

94,270,000

0

0

算出税額

(6) (4)に対する税額

0

0

0

0

(7) (5)に対する税額

0

23,781,000

0

0

(8)   計 ((6)+(7))

0

23,781,000

0

0

(9) 差引納付税額

0

23,781,000

0

0

(10) 重加算税額

7,134,000

(11) 過少申告加算税額

2,353,000

別表2

昭和60年分の譲渡所得金額の計算

(単位:円)

区分

確定申告

更正処分

譲渡価額

103,000,000

102,000,000

取得費

5,150,000

5,100,000

譲渡費用

1,300,000

1,300,000

買換資産の取得価額

103,835,125

0

収入金額

(①-④)

0

102,000,000

必要経費

(②+③)×⑤/①

0

6,400,000

特別控除額

0

1,000,000

分離長期譲渡所得の金額

(⑤-⑥-⑦)

0

94,600,000

別表3

都市ガス、水道及び電気の使用量

区分

山田マンション

本件家屋

芦屋の家屋

月分

ガス

水道

電気

ガス

水道

電気

ガス

水道

電気

m3

m3

KW

m3

m3

KW

m3

m3

KW

59.1

42

592

2

31

48

672

3

41

710

4

32

22

529

5

35

477

6

27

42

453

7

17

524

8

8

48

712

9

9

586

10

19

44

416

11

25

443

12

30

36

554

60.1

35

697

2

30

32

661

3

34

612

2

3

21

4

32

32

512

9

172

5

29

461

10

274

212

6

22

34

392

4

111

7

27

478

5

74

120

8

22

38

670

15

157

9

△9

666

9

16

158

10

8

36

463

6

159

11

8

235

0

19

139

96

1,209

12

62

36

221

1

76

82

28

4,958

61.1

80

221

3

92

164

4,847

2

91

30

198

53

152

63

2,923

3

84

117

1,713

4

53

135

58

755

(注)本件家屋の昭和60年5月の水道の使用量が多いのは、水道管の破損によるもの

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